「その場しのぎ」の脳が人間らしさを生んだ?

テレビの教育番組などで、脳は巧みに設計された機械、効率的にはたらく素晴らしい機械として描いている。究極の機械、という扱いだ。それは正しいのか?人間らしさは脳のどこから生じたのか?

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「つぎはぎだらけの脳と心ー脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?」(デイビット・リンデン著、インタープレス)

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我々の脳は完璧なものでも、非の打ち所のないものでもないし、ゼロから十分な吟味の上で作られたものでもない。実際には、全てが間に合わせ、その場しのぎ、寄せ集め、次善の策の産物なのだ。

我々が最も「人間らしさ」を象徴すると思っている特徴(愛すること、記憶すること、夢を見ること、宗教を持つことなど。図9-2を参照)は、どれも、何百万年という進化の歴史の中で、「その場しのぎの対策」が無数に積み重ねられてきた結果として生じたものなのである。

だが、進化の道筋が曲がりくねっていたにもかかわらず、その場しのぎの対策だけで作られたにもかかわらず、我々はこれだけの思考力と感情を持ちえた、などと考えるのは正しくない。真実は全くの逆で、進化の道筋が曲がりくねっていたからこそ、その場しのぎの対策の寄せ集めだったからこそ、我々は今のような姿になったと考えるべきなのである。

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図9-2「愛情、記憶、夢、神は、脳に対する進化上の制約から生じた」は、掲載省略。本書で述べたことの要約になっている。(全図は本書322頁を参照。)

なお、

図9-2の一部分を以下に抜粋掲載します。

「脳の設計上の進化上の制約」;

1.脳をゼロから設計し直すことはできない。必ず既存のものに新たな部分を付け加える、という方法を採らなくてはならない。

2.脳にいったん持たせてしまった機能を「オフ」にするのは難しい。たとえ、その機能が負の効果をもたらすような状況でも、なかなか「オフ」にはできない。

3.脳の基本をなすプロセッサであるニューロンは処理速度が遅く、信頼性も低く、信号の周波数帯域も狭い。

「進化の道筋」;

ー>脳に高い処理能力を持たせるには、ネットワークを複雑にし、サイズを大きくしなくてはならない。そのため、誕生時、胎内で十分に成熟してしまうと、産道を通り抜けられなくなる。

ー>「愛情」および「記憶」「夢」「神」の誕生への進化の道筋(省略)

以上

 

 

 

生命とは

情報・機械・エネルギー―これが生命を理解するための三つのキーワードです。

生物は遺伝情報によってつくられています。遺伝情報によってつくられるのは、分子レベルの機械です。たくさんの分子レベルの機械がはたらいて、生命の秩序をつくりあげています。その秩序を保つために、生体内ではつねにエネルギーの変換がおこなわれています。

分子生物学入門」(美宅成樹著、岩波新書

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心の起源

心はどのようにして誕生したのか。この難問を解くキーワードは「記憶」。記憶を持つことで過去と現在の照合が可能となり、それまで瞬間のみを生きてきた生物が時間と空間を獲得した、と著者は仮説を立てる。さらには快・不快という原初の感情が芽生え、物事の因果関係を把握することで、本能によらず自らの意志で行動する自由を得た。

 

「心の起源ー生物学からの挑戦」(木下清一郎著、中公新書

ゲノム編集とは

細菌のDNAの塩基の並びに見られる不思議な「回文」(上から読んでも下から読んでも同じ)構造CRISPR(クリスパー)を日本の石野良純博士が大腸菌のDNAの中で発見した。ジェニファー・ダウドナ博士とシャルパンティエ博士は、そのCRISPRは細菌がウイルスに感染しないため進化させた防御システムであり、RNAがウイルスの侵入を察知し、Cas9というたんぱく質酵素がそのウイルス特有のDNA塩基を破壊することをつきとめた。そしてこのCRISPR/Cas9自体が遺伝子編集にも使えることを2012年発表した。ノーベル化学賞の最有力と目されている。

ゲノム編集食品来月届け出開始 早くて年末以降食卓へ

ゲノム編集食品について9月14日朝日新聞は以下を報道した。

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ゲノム編集技術を使って野菜や魚の遺伝情報を変えた食品について厚生労働省は12日、事業者からの届け出を10月1日から受け付けると発表した。国内では血圧を抑える成分が多いトマトや肉厚なマダイなどの開発が進んでいる。食卓に上るのは早くても年末以降になる見通し。

ゲノム編集食品は、遺伝子をピンポイントで変える「CRISPR/Cas9(クリスパー・キャスナイン)」などの遺伝子編集技術を使った食品。DNAを切って遺伝子を壊したり新たに加えたりすることで、栄養価を高めたり、収量を増やしたりすることができるとされる。

DNAを切って遺伝子を壊してつなぐゲノム編集食品は、自然界の突然変異や従来の品種改良と区別がつかない。安全性もこれまでの品種改良と同程度のリスクであるとして、厚労省は事業者にどこをゲノム編集したかなどの情報を届け出るよう求めるものの義務化はしないと決めた。また、農林水産省は農水産物を育てる際の生態系への影響に関する情報の提供を求めることにしている。どのような情報を提供すべきかを近く示す。

食品表示について、消費者庁は義務化せず事業者の任意とする見通しだ。ただ、ゲノム編集食品かわかるよう表示してほしいという声が多く、近く表示の方法を示す。

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ゲノム編集食品について、朝日新聞などによると、以下のような疑問や不安があるという。

(1)ゲノム編集は狙った部分の遺伝情報を変えることができる。とはいえ「何でもできると思われがちだが、そうではない」と多くの研究者は口をそろえる。ゲノム編集を使うには膨大な遺伝情報の解読が必要だが、明らかになっているのはごく一部だ。

(2)自然界で起きていることはDNAの任意の場所にランダムな変化が偶発的に起きることである。ゲノム編集でなされることはDNAの特定の場所に意図的な変化を人為的に導入することである。これを同等とみなすことは全くできない。後者は生命システムへの積極的な介入=組み換えに他ならない。

(3)ゲノム編集技術は発展途上。被害が起きてしまった時の責任はどうなるのか。意図とは異なる編集がゲノムの別の場所で起こってしまうことを「オフターゲット」という。科学者は技術的に可能ならば挑戦しようとする。それは、ゲノム編集をヒト受精卵に応用しようとする性急な動きからも明らかだ。もし想定外(オフターゲット)のことが起きた場合、誰が責任をとれるのか。

(4)今回の決定は、昨年6月に閣議決定された政府の統合イノベーション戦略がゲノム編集食品について、「今年度中に取り扱いを明確化する」と打ち出したのを受けて始まった。その直後にEU司法裁判所が「ゲノム編集作物も遺伝子組み換え食品に当たる」と、今回の日本の判断と正反対の判断を示すなど、問題は複雑で各国の対応も一様ではない。関係省庁はその達成が至上命令になっていないか。

(5)ゲノム編集食品について、一片の「通知」で済ませるのではなく、輸入食品を含め、当局が検証に堪えるデータを確実に得られる仕組みを作る必要があるのではないか。そのうえで、集めた情報を消費者にわかりやすく届け、食べるか食べないかを自分の判断で決められるようにする。そんな環境を整えることが政府の務めだ。

(6)ゲノム編集食品は、安全性審査をしないのなら、改変の有無がわかる表示は一層必要だ。表示の義務がないという国の方針が消費者の信頼を損なう方向に作用する可能性もある。

(7)ゲノム編集を巡っては国民の間に漠とした不安があることを示す東大チームの調査結果もある。ゲノム編集農作物を「食べたくない」は43%、「食べたい」は9.3%、畜産物では「食べたくない」は53.3%、「食べたい」は6.9%。

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ゲノム編集に関する図書を紹介します。

(a)「ゲノム編集とは何か」(小林雅一著、講談社現代新書

 

 

(b)「ヒトの遺伝子改変はどこまで許されるのかーゲノム編集の光と影」(石井哲也著、イーストプレス

 

(c)「10億分の一を乗り越えた少年と科学者たちー世界初のパーソナルゲノム医療はこうして実現した」(M.ジョンソン著、紀伊国屋書店

 

***********************以上

なぜ人はこんなに争ってばかりなんでしょうか

トランプ米国大統領やジョンソン英国新首相などの行動を

見聞きするにつれ、表題のような疑問が湧いてきます。

その解答のきっかけになりそうな図書を紹介します。

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「和解する脳」(東大教授池谷裕二・弁護士鈴木仁志著、講談社、2010年発行)

**************(以下、上記図書より抜粋)

「いまを生きているわれわれは、みな太古の昔に生まれた微生物の末裔。その微生物たちは、30数億年もの長きにわたり一度もとぎれることなく生命の襷を繋ぎ、しまいには協力的な恩返し社会まで作ってしまった、、、。

互恵的利他行動、すなはち助け合いと恩返しが人間の一つの

本質的特徴なのだということを初めて進化生物学から学んだとき、むつかしい言葉の並ぶ科学書を読みながら、なぜか涙がでそうになりました。

進化生物学の考え方によれば、ヒト(ホモ・サピエンス)は、同胞とともに社会を作り、助け合い、共存を図るという戦略によって、他の生物とは異なる特徴的な発展を遂げることに成功したようです。そうだとすれば、人間の遺伝子や脳には、共存に適した社会関係を維持するためのプログラム、もっと言えば、「仲直り」を促進するためのプログラムも備わっているとは考えられないだろうか。

紛争を数多く扱ってきた実務家としては、経験的・直観的にも、人間には「和解」に対する欲求と能力が備わっているように思えてなりませんでした。たとえ紛争が発生したとしても、人間本来の社会的な解決能力をうまく引き出すことができれば、あたかも身体において自然治癒力が働くように、紛争は解決の方向へと動き始めるのではないか。これが私の考える平和的紛争解決の出発点でした。(鈴木仁志の「あとがき」より)

******************(以上、上記図書より抜粋)

日本一短い手紙「いのち」

福井県丸岡町が毎年公募する「一筆啓上賞ー日本一短い手紙」の2001年度は、テーマが「いのち」。2001年米国同時テロが重なり、さまざまな想いが寄せられた。その中から、一筆啓上賞10篇を紹介します。また、小生が独断偏見で選んだいくつかの作品も紹介します。
<一筆啓上賞>
どんなにキレイな音を奏でても、このいのちの鼓動にはかなわない。浅見佳苗(千葉県14歳)

幾つもの命と繋がってるやん命って。繋がった命やから、失うと悲しいねんな。上古代瞳(奈良県14歳)

うさぎは淋しいと死んでしまうらしいよ。私たちと同じだね。河原崎ひろみ(東京都14歳)

「一人暮らしの大の字で、横を見るとアリがいる。こいつも俺も、生きているんだなあ。」 木下和夫(大阪府54歳)

ひとつ。ひとつ。ひとつ。ひとつ。ひとつ。ひとつ。ひとつ。ひとつ。ひとつ。命。小林俊輔(神奈川県18歳)

「いのち」の終りに三日下さい。母とひなかざり。貴男と観覧車に。子供達と茶碗蒸しを。下元政代(高知県51歳)

「お前のために」って言葉が僕の命に責任(おもり)をのせる。教えて、この命誰のなの? 寺田弘晃(福井県17歳)

葬式の時は空気が微妙にぬるい 人間と悲しさが空気に溶けている 水野綾香(愛知県14歳)

いのちがおわるときも、夏休みがおわるときのように、短かったと思うのかなあ。緑川なつみ(神奈川県14歳)

仕返ししてどうするの たくさん人が死んで もっとたくさん悲しむだけじゃん 四方田栄子(埼玉県13歳)


<そのほか>
つらい時は命のこと考えるのに、楽しい時には考えないのなぜだろう? 東友香(滋賀県15歳)

今日、あなたと目が合った 胸のドキドキが止まらない 私・・・生きているんだ 越川真江(東京都20歳)

うけ継がれてきた いのちの先端、あなたも私もトップランナー 西尾美恵子(福井県31歳)

「誕生日変更のお知らせ 昨日、涙で溺死しました。今日が、私の新しい誕生日です。」 奥村美紀(愛知県30歳)

自分の「いのち」より、守りたい「いのち」が見つかったよ。ちょっと成長したかなあ。後藤幸恵(熊本県15歳)