生命のストラテジー(1)

「生命のストラテジー」(松原謙一、中村桂子共著、早川書房)より。

人間とはなんだろう。われわれはどこから来てどこに行くのだろう。このような問いに現代の生物学、なかでもDNAの研究はどのような答えを出しているのだろうか。この問いは、「生命のしくみ」とは違って「生命の流れ」を問題にしている。遺伝子という窓を通して生命の流れを見てみよう。

   
   
 遺伝子の窓を通してみると、「どんなことがあっても生命をとだえさせない」というのが生命が採用してきた基本のストラテジーであると思えてくる。そのストラテジーを遂行するために、実際にはたらくのがDNAであり、なかでも、DNAの正確な複製が基本である。あえて擬人法を使えば、生命は続くためにのストラテジーとして、物質としての安定性を選択せず、情報の再生産を見事に行う方式に賭けたのである。
 そして、この方法のために、生命はよいニッチに恵まれればそこで最大限にふえ、その中で絶えず変わり者を作り出しながら多様な生命を準備して、可能な限り多様なニッチに進出して生活させるという方法を発達させてきた。
 ここに見られる多様だが共通、共通だが多様という生命は、DNA遺伝子系が、安定だが変化する、変化するが安定という特性を具えていることに基礎を置いている。そして、死滅し失われながらもなお継続する能力のおかげで、時々刻々変わる環境の中でうまく生活することができた。こうしてさなざまな生命が作り出され、その置かれた環境によって栄え、あるいは消えていった。(つづく)

「生命のストラテジー」(松原謙一、中村桂子共著、早川書房)より。